NATROMのブログ

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良心的なホメオパシー

■JBpress(日本ビジネスプレス)のホメオパシーの記事についてのコメント欄でも述べたが、私はホメオパシーに関しては消極的容認の立場に立っている。安全で、安価で、現代医学を否定しないのであれば、代替療法を否定する理由はない。ホメオパシーで患者に与えられるレメディは超希釈されたものであって、基本的には無害である*1。法外な利益を得ようとしなければ、安価で提供できるだろう。あとは現代医学を否定するかどうかであるが、日本で宣伝されているホメオパシーと異なり、現代医学を否定しないタイプのホメオパシーもある。kikulogの■ホメオパシーはインフルエンザに効きません(追記あり5/6)のコメント欄での、「フランスから」 さんのコメントによると、フランスでは、



医師の元に行き、ちょっと風邪気味、ちょっと頭痛がすると
いうような、医師も「とりあえず鎮痛剤だしておくかっ」
てな場合のみ「お薬だしておきますね。普通のお薬にしま
すか?ホメオパシーにしますか?どちらでも出せますよ」
といった具合に出されます。


なのだそうだ。裏を取っているわけではないが、海外でホメオパシーが容認されているのは、必ずしも現代医学を否定していないのが理由の一つであるようだ。ぶっちゃけて言えば、放置しても治るような疾患に対しては、ホメオパシーに基づいたレメディを処方しようが、西洋医学に基づいた薬を処方しようが、大差ないのである。日本で言えば、ツムラの何番とかの製品化された漢方薬に似ている。漢方薬は有効成分を含み理論的にも効果がある可能性は十分あるし、実際、一部にはきちんとしたエビデンスがあり、さらには強い副作用が生じることもあるという点でホメオパシーと異なる。しかし、実際の現場では、しばしばプラセボとして運用されている(参考:■市場は漢方薬が保健適用外とされる可能性は低いと予想。[ホツマツ○ヱ。])。

フランスでのホメオパシーの運用は(「フランスから」さんの情報が正しいとして)、まず医師が診察して、重篤な疾患ではないことが確認された後にレメディが処方される。一方で、イギリスでは、医師の診察なしに、セルフケアとして使用されているようだ。しかし、少なくとも、ホメオパシー大百科事典によれば、必要な場合は医師の診察を受けるように指示されている。



医師から処方された薬の服用を、事前にその医師に相談することなく中止してはいけません。(P9)


まず始めに、自己処方が安全かどうかを判断します。症状によっては重い病気の現れであり、すぐに医師の診断を受けなくてはならないものもあります。既に処方薬を服用している人は、レメディーの服用前に医師に相談しましょう。赤ん坊や子ども、妊娠中の女性、高齢者、慢性疾患がある人は、セルフヘルプ(家庭での自己対処)に際して慎重に検討してください。(P216)


個々の疾患についても、医師の診察を受けるべき時期が明確に示されている。たとえば、以下のような具合。


  • 耳痛に伴い発熱や耳だれがあるときは、すぐに医師に診てもらう。子どもの耳痛に関しては、医師に相談すること(P222)
  • 子どもが、熱性痙攣―異常な呼吸や四肢の動き、キョロキョロと動く目、意識不明に苦しんでいたら、体温を下げる処置をして医師に診てもらう。(P248)
  • 子どもに百日咳の感染が疑われる時は、48時間以内に医師の診察を受ける。抗生物質の投与で症状を軽く抑えられるが、その後は生菌入りのヨーグルトなどで好酸性物質を補給し、腸内の善玉細菌を回復させる。子どもが咳こみ真っ青になったら2時間以内に医師に診てもらう。(P250)
  • 子どもに水ぼうそうが疑われる時は、24時間以内に医師に診てもらう。発疹の発症後2日たっても高熱が続くか、容態が悪く肺が弱っているようなら、肺炎が疑われるので2時間以内に医師の診察を受ける。(P252)


日本で言えば、たまご酒を飲んだり、梅干をおでこに貼りつけたりすることに相当すると思われる。おまじない程度のものであっても、不必要な受診が減り無駄な医療費を節約できるかもしれない。心理的な効果だってあるだろう。また、抗生物質の投与に対して否定的でないことに注意。ホメオパシー大百科事典の著者は、ホメオパシーにプラセボ以上の効果がないことなんて承知しているのではないかと、読んでいて思った。ホメオパシーに効果がないことに自覚的な医師が、患者が現代医学を受ける機会を失うことがないように(加えてそのせいで自分が訴訟に巻き込まれないように)、なおかつホメオパシーの呪術的な効果を生かすようにホメオパシーの本を書いたらこうなるのではないかと。ホメオパシーによる医療は、良し悪しはともかくとして、パターナリズム的である。「科学的には効果がないとされている」ことを患者側に知られれば効果が弱まるからだ。

以上、フランスとイギリスのホメオパシーの一部を紹介した。すべてのホメオパシーがこのように現代医学を否定しないのであれば、批判されることもなかっただろう。しかし、日本のホメオパシーの多くは、特にホメオパシー・ジャパンは、現代医学を真っ向から否定している(参考:■喘息に対するステロイド治療を否定するホメオパシー)。海外においても、現代医学を否定するタイプのホメオパシーが問題になっている(参考:■ホメオパスたちは自らホメオパシーの未来を閉ざす(1)[忘却からの帰還])。