NATROMのブログ

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バイオラバー販売業者に薬事法違反の恐れ

バイオラバーは、山本化学工業株式会社が開発し、「人体に有用な波長を出す」と主張されている。このブログでも、■バイオラバーの驚異的な効果■ニセ科学を見抜く練習問題(「バイオラバー」応援サイトから)で紹介した。「バイオラバー」を検索ワードで当ブログに来る人もわりといる。さて、朝日新聞によると、バイオラバーを使った商品を販売している業者が「がんが治る」などと効能をうたっていることから、薬事法に違反する恐れがあるとして、捜査当局が販売の実態を調べているとのこと。


■高速水着素材「がん治る」と販売 薬事法違反の恐れ(朝日)


 朝日新聞が調べたところ、「がん治療効果がある」などと説明して販売していたのは東京に本社のある健康用品販売会社。同社は東京のほか大阪、京都などに店舗があり、ホームページに定期的にバイオラバーに関する「説明会」の案内を掲載していた。バイオラバー自体を紹介するページもあったが、現在は削除されている。
 説明会では、同販売会社の担当者らが「バイオラバーは遠赤外線を出し、がんを抑制する効果がある」などと説明し、バイオラバーを使ったマットやベストなどの商品を販売していたという。
 薬事法は、人体に影響を与える医療機器を販売する際には、効能について品目ごとに厚労相の承認が必要と規定。承認申請した効能は厚労省の外郭団体で審査される。未承認の効能をうたっての販売は禁止されている。


バイオラバーを販売している健康用品販売会社はたくさんあるので、問題となった業者がどこなのかはわからない。そもそも、バイオラバーに限らず、「薬事法違反の恐れ」のあるウェブサイトなんてごまんとある。かたっぱしから捜査するわけにもいかないので、目立ったところを叩くことで一定の抑止効果を期待しているのだろう。バイオラバーは、ときにテレビのCMなどで見かけることもあり、目立っていると言える。一方で、薬事法違反で逮捕されたというニュースはよく聞くが、捜査当局が販売の実態を調べている段階での報道はあまり聞かないので、今回の報道がなされた背景が知りたい。続報を待ちたい。

さて、記事によれば、薬事法に違反する恐れがあるとされたのは販売会社であって、バイオラバーを開発した山本化学工業株式会社ではない。ウェブ版の記事には出ていないが、紙面*1のほうには、


取材に対し、山本化学工業の幹部は、バイオラバーには医学的な効能はないとし、「販売業者には『がんが治る』という説明はしないようにお願いしている」と話した。

とあった。記事が正しいなら、山本化学工業の幹部がバイオラバーに医学的な効能はないことを認めたわけである。しかし、山本化学工業のサイトの主張と矛盾するように思える。さすがに「がんが治る」とは明示していないが、医学的な効能があるかのように書いてある。「健康維持に。気軽に使えるバイオラバー」*2、「バイオラバーが発するバイオウェーブを活用し、健康づくりなどに、役立っています」*3などという記述がある。医学的な効能はないのに、健康づくりに役立つなんてことがあるのだろうか。

他にもバイオラバーが発する遠赤外線が人体に有用であるかのような記述もあり、山本化学工業のウェブサイトの記述は黒に近いグレーと私は考える。病気が治るといった明らかな効果効能をうたっていないのでセーフなのかもしれないが、そうだとしても釈然としない。というのも、科学的に根拠のない「健康維持」製品について、製造元は効果をほのめかすだけに留めて、小売店が薬事法違反覚悟で宣伝するというやり方が許されるということだからだ。いつでも本体から切り離せる宣伝サイトをつくるという方法だって可能だ。「癌に効果絶大」などと宣伝しておいて、問題視されたら、「製造元としては販売業者にそのような宣伝をしないようお願いしている」とでも言えばいい。あらぬ疑いをかけられないようにするのは簡単である。山本化学工業は、自社のサイトに、「バイオラバーには医学的な効能はない。癌が治るという臨床的証拠はない」と明示すればよい。

*1:2009年10月20日朝日新聞朝刊

*2:URL:http://www.yamamoto-bio.com/list.html

*3:URL:http://www.yamamoto-bio.com/health.html