NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

化学物質過敏症の第一人者が効果を立証した電磁波防護製品 テクノAO

■株式会社テクノエーオーアジアのサイト*1によると、見えない電磁波から身を守る「テクノAO」は「高周波〜低周波まで対応できる唯一の商品」だそうです。■テクノAOの基本原理*2から引用してみましょう。



テクノAOの製品の内部には硬質プラスティックのカプセルが内蔵され、中にバイオ溶液が封じ込められています。このバイオ溶液は、この最も危険性の高い超低周波に対応するため、太古の深海のミネラルバランスに着目して開発されました。また守られるべき私たちが、水を持った生命体であることから共振性を高めるために液体を使うことで、より繊細で深部まで届く自然波を再生することができたのです。隆起した地層を何箇所もボーリングして、深海のミネラルバランスを特定し、その後、最も私たちの脳波に優しいアルファ波帯で自己発振する周波数まで調整が繰り返されました。絶妙なミネラルの配合値が、限界値まで希釈して作られ、配合から発振される波が長期間安定して発振できるように特殊溶液が作られました。この溶液は液体が安定的に結晶化された、いわば本来の液晶(リクィッドクリスタル)です。このバイオ溶液が細胞内のミトコンドリアに反応し、脳のアルファ波帯を増幅し、身体の自己防衛の能力を最大限に高めます。また有害な電磁波をカットするのではなく補正し、身体に入ってくると同時に最大限に無害化します。また、テクノAO技術の最大の特長は、私たちの身体と同じで、電池も電源も使用せずに、繊細で微弱な自然の波を発振しているのです。


もうこれだけで、どのような製品か、読者のみなさんは理解できたことでしょう。よくあるインチキグッズなどと思っていはいけません。確かに、電磁波防護製品には「臨床データがないなど、科学的に見て疑問のある製品も多い」のですが、テクノAOについては、「臨床データによってその効果が医学的・科学的に実証されている」のです。株式会社テクノエーオーアジアは、臨床データを公開しています。けっして、科学的な素養のない消費者を騙すためのハッタリなどではなく、科学リテラシーのある人がテクノAOに効果があるかどうか判断できるようにです。良心的ですね。臨床データの一つ*3を引用してみましょう。



北里大学病院女性検査技師10人に対して、1日4時間TVゲームをさせ、テクノAOの有・無のテストを1週間以上の間隔を置いて行い、TV画面が目の対してどのような影響を与えるかの実験を行ないました。
その結果、テレビ画面からの電磁波を受けると、目の角膜上皮にびらん(軽いやけど状)が見られ、焦点距離の反応も減少しましたが、テクノAOを装着することで、目のびらん状態が軽減され、また焦点距離の反応も増大し、効果が認められました。



対象はヒトのはずなのに、なぜマウスの角膜の写真が載っているのか意味不明です。あたかもテクノAO有群で焦点距離の反応性が良く、テクノAO無群では反応性が悪いように見える「焦点距離の反応性」のグラフですが、原著*4では、「焦点距離の反応性」ではなく、「調節近点の延長」を示したものです。ディスプレイを長時間見続けると調節近点が延長することから、目の疲労度の指標として使われています。一般的には、調節近点の延長が少ないほうが望ましいとされています*5。普通に解釈すると、テクノAO使用群では目が疲れやすいことを示しているのですが、原著では「当然現れるべき疲労現象が生じている」と考えられてます。「調節近点の延長」を「焦点距離の反応性」に改ざんした株式会社テクノエーオーアジアもすごいですが、無理やり商品を誉める方向へ持っていった原著も更にすごいです。






ちなみに使用したゲーム機はセガサターン

セガサターン、シロ!目がただれるまで!


それはともかく、臨床データが出た以上、効果が医学的・科学的に実証されたといえるのでしょうか。市民のための環境学ガイドの安井至先生は、「全くの詐欺。販売者(テクノAO)はマックスウェルの方程式を勉強せよ」「ここの製品は、すべて詐欺だろう*6と強い批判をしています。


■AERAの電磁波恐怖記事強調は引用者による)


C先生:そのテクノAOジャパンという会社だが、実は、これまで公表していなかったのだが、Aeraの記事のトーンがこの企業の製品が電磁波防止に利くとでも言いたげだから、ひとつばらしてしまおう。
 その企業のさる人は、我々のHPの記事が「けしからん」と、脅迫まがいのメールをよこした。このHPの影響で、大きな取引がキャンセルされたというような内容だった。もしも本当ならば、無駄な投資をするという被害者が出なかったのだから、大変に良いことだ。大体、脅迫めいたメールを出すような企業は、前にも後にもここ一社だけだ。

A君:そういえば、思い出しましたが、かなり前のエコプロダクトを紹介するHPで、B君が×をいっぱい付けたような気がする。

B君:おう、そういえば。それは自分だ。「ECO21の薦めとエコグッズ批判」06.05.99、(表紙へリンクを張ります)で、×を7個も付けて、「全くの詐欺」と切り捨てた。

C先生:そう。その記事に対して、「損害賠償を含めた法的な手段を考えます」といった言い方に近いメールだった。

A君:それで返事も出さすに、黙っていたのですか。

C先生:いや。返事は出した。もちろん、その前にテクノAOの製品について、再度勉強をしてみた。最初は、この製品が電磁波を吸収するという主張をしているのか、と思ったら、実はそうではなかった。1年前には、そんな表現だったのかもしれないが、さすがに、それでは嘘だと見抜かれると思っているのだろう。さらに手口が高級化している。しかも、北里大学、武蔵工業大学、さらには、フランスのモンペリエ大学にいくら研究費を出したのか分からないが、ちゃんとシンパの教授群を作っている。

B君:ほー。吸収ではないとしたら、何ですか、その効果とやらは。

C先生:それがなんと、「周波数変換」だというのだ。人間の体に悪い周波数を体に良い周波数に変えます。これだ。さる料理教室で、「このミネラルウォータの周波数は体によい」という先生がいるらしいが、そのノリ。

A君:どうやって周波数変換をやっているのでしょうか、ものすごい仕掛けですねえ。

B君:何をいっているんだ。単なる音叉みたいな形のものだぜ。中に、塩水かなんかが入ったアルミ製の。単なる共鳴よ。

C先生:その変換後の周波数の磁場出力が100フェムトテスラだという。フェムトなどという単位は、われわれが計算機シミュレーションで行っているときに1ステップが1フェムト秒ぐらいで計算しているが、それ以外に初めて見た。フェムトテスラというと、通常、テレビなどが出しているとされている磁場はナノからマイクロテスラオーダーだから、それから6桁以上も低い強さの磁場がその防止装置からでていて、それが有害周波数の有害性を消すんだそうだ。すごい物理学だろ。1億円のお金が流れているところに、1円玉を1個投げ込むだけで、市場のメカニズムが変わるということとほぼ同じ。

A君:それを支持しているという北里大学の先生は、どんなことをやっているのですか。

B君:興味があれば、これを読んだら。Webに出ていた。どうも、眼科の先生で目に対する影響を調べているようだ。その装置を付けたテレビと付けないテレビを比較している。被験者が身内だし、その装置が見えている状態でテストしているから、まあ、試験法自体がおかしい。盲検法になっていない。武蔵工大のレポートは有料だそうで、ここでも金儲け。

C先生:ということで、テクノAOとは、現在休戦状態。こんな怪しげなビジネスをAeraはなぜ見抜けないのだろう。もっと勉強してよ。それとも、環境分野では、こんなことしか記事になるようなネタが見つけられないのか。


原著にあたってみれば、株式会社テクノエーオーアジアと安井至先生のどちらが科学的に正しいか、容易にわかります。さて、テクノAOの有用性を示した研究を行った北里大学の眼科の先生とは、北里大名誉教授・宮田幹夫先生です。前回の■化学物質過敏症の病名登録についてで紹介した毎日新聞の記事には、「CSに詳しい宮田幹夫・北里大名誉教授」として談話を載せています。化学物質過敏症についての著作も多数あります。日本の化学物質過敏症の第一人者は、テクノAOにお墨付きを与えるような医学者だったんですね。化学物質過敏症について健保の適用が長いこと認められていなかった理由の一端をみなさんにご理解いただければと思って、今回のエントリーを書いてみました。


*1:URL:http://www.tecnoao-asia.com/product.html

*2:URL:http://www.tecnoao-asia.com/about_basic.html

*3:URL:http://www.tecnoao-asia.com/about_data/rinsyo03.html

*4:■眼科臨床医報 第93巻 第11号 別冊 VDT作業負荷による眼機能とテクノAOの効果(URL:http://www.tecno-ao.co.jp/data/tecno006.html)からダウンロードできる。このエントリーで取り上げきれなかったツッコミどころが満載で面白いよ!

*5:たとえば、■ナナオが「ディスプレイの使い方で疲れ目が軽減される」との調査結果を発表では、「平均調節近点延長率が高いほど、疲労度が高い」として、ディスプレイの適切な輝度やVDT指導で平均近点延長率が低下、すなわち目の疲労度が低下する、としている

*6:■ECO21の薦めとエコグッズ批判