NATROMのブログ

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波動測定器の有効性を検証した論文を読んでみた

前回紹介したホメオパシー・ジャパンが販売する波動機器「クォンタム・ゼイロイド」について、日本語の医学論文検索エンジンである医中誌で検索してみたら、なんと2件ヒットした。マジか。






青山千佳氏は獣医師でロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー(RAH)の講師。

石橋貴代氏は日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)の認定ホメオパスで、

「QXのエキスパート」とのこと。

ご存じ由井寅子氏は、RAH学長、JPHMA会長。



「日本未病システム学会雑誌」は、いかにもな雑誌だけど、それにしたって掲載する論文を選べばいいのに。「未病システムの展開 遠隔健康管理 QX-SCIOクォンタム・ゼイロイド意識インターフェイスについて(解説)」については、ワークショップ「未病システムの展開―遠隔健康管理―」の追加発言として掲載されており、仕方がないのかもしれない。一般的に、論文掲載に比べて、学会発表はハードルが低い。トンデモさんが学会で発表することはよくある。一方、「クォンタム・ゼイロイド(QX-SCIO)を用いて動物をエネルギー測定することの健康相談への応用」のほうは、「研究論文」とされている。内容は論文の呈をなしていないが、紹介してみよう。まず、「はじめに」で、動物に対してクォンタム・ゼイロイド(QX-SCIO,以下QX)の測定結果をレメディー選択に活用していると述べる。



本報告では,QXで動物のエネルギー測定を行い,動物の身体,感情,精神の状態を推定することにより,ホメオパシー療法における最適なレメディーの選択の支援や,動物の健康維持に役立てることの可能性,ツールとしての有効性を検証する。


測定した動物延べ116頭のうち、犬、猫、イグアナの3ケースについて報告されている。もうこの部分だけで、100例以上もあるんだから、たまたまうまくいったケースのみ紹介したんじゃね?という疑問が湧くが、そんな心配はご無用である。選ばれたはずの3例だけでも、QXなるものの性質がよく分かる。まず一例目。5歳の雌の犬のケース。






「破傷風」というキーワードから外傷を連想


「破傷風」という測定結果が出て、実際には破傷風ではなかったんだから、これはハズレなのでは?破傷風から外傷を連想することができ、って、連想とかアリなのか。QXは「約9000項目に対する被験者のエネルギー的反応の測定」ができると主張されているけど、9000項目もあって、外傷の項目はないのか。次、1歳の避妊済み雌の猫のケース。






「甲状腺」と関連づけることができる


いやいやいや、別に客観情報では甲状腺も歯も悪くなかったんだろ。甲状腺機能を測定しないと検証にならないだろ。測定結果を検証しているのではなく、解釈しているだけ。3番目は3歳雌のグリーンイグアナのケース。






本イグアナは同居イグアナと比較しても絶望しているようにみえる


このイグアナは悲しんでいるのに、「甲状腺」という測定結果が出てないのはなぜ?悲しみは甲状腺に影響を与えるんじゃなかったの?排尿困難は、測定結果と症状が一致している。しかし、排尿困難については、測定前から既知の情報であった。未知の情報が得られないと有効とはいえない。本例では、結石についての事前情報はなかったのだから、レントゲン等の検査によってこれまで未知の結石の存在が明らかになったのであれば、QXの有効性が示唆される。しかし、そのような検査はなされていない。腸の問題についても同様。客観的な検査で検証する代わりに、「本イグアナは同居イグアナと比較しても絶望しているようにみえる」という、飼い主による主観的な情報でもって検証としている。また、3例ともレメディが効いたとされているが、比較対象がないので自然経過と区別できないことに絶望した。

QXを科学的に検証する方法はいくつか考えつく。たとえば、「甲状腺」という結果が出た群と出なかった群でそれぞれ甲状腺機能を測定してみて、確かに「甲状腺」という結果が出た群で甲状腺機能異常が有意に多いことを示す、あるいは、QXに基づいてレメディを処方した群と、これまで通りの方法でレメディを処方した群を比較する、など。「連想」や「関連」などと言って結果を「解釈」したり、あるいは飼い主の主観的な観察に当てはめたりしてしまうと、どのような測定結果も「当たり」となってしまう。たとえば、2番目や3番目のケースで「破傷風」という結果が出ても、外傷と関連付けられて「実際の身体症状や病理像とほぼ一致していた」と解釈され、あるいは飼い主から外傷の既往を聞き出されていただろう。クォンタム・ゼイロイドの検査結果は科学というより占いである。現状では、焼いた亀の甲羅の亀裂や、カップに残ったコーヒーの模様と、QX測定結果は同列である。

占いが人を癒すこともあるだろう。しかし、何百万円もする高価な機械を使うようなことではない。そもそも、和文のマイナーな雑誌とは言え、一応は医学雑誌なのに、かような内容の「論文」を掲載したことについて、「日本未病システム学会雑誌」の編集者の見識を疑った。「日本未病システム学会雑誌」に掲載された他の論文の著者に同情する。しかし、この手の領域の論文については、あまり査読を厳しくすると掲載できる論文が少なくなっちゃうという事情もあるのだろう*1。そういう雑誌だと割り切っちゃえばいいのかもしれん。内容がいい加減な論文でも掲載してくれる雑誌があれば、陰謀によって発表する機会を奪われたとか言っているトンデモさんに対する反論になりうる。「製薬会社の横槍で論文が載らない」などと言っている「画期的な治療法を発明しちゃった人」は、ぜひ、「日本未病システム学会雑誌」に論文を投稿してみてはどうか。


*1:個人的には、怪しげな学説が跋扈している領域だからこそ、きちんと査読を行ったほうがいいと思うけど