NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

「所さんの目がテン!」で血液型を科学してた

「mixiのもういいよ血液型」コミュ*1経由で、「所さんの目がテン!」が血液型を扱うという情報を手に入れた。事前の情報ではちょっと不安が漂う。


■はやく知りたい!次回の目がテン! “病気に強い血液型発見(仮)” (2008年10月19日放送予定)*2魚拓


最近、血液型別の性格判断本がベストセラーとなり、再びブームとなっているのが血液型。
A型は「几帳面」、B型は「自己中心的」、O型は「大雑把」、AB型は「気分屋」。実はこの血液型性格判断の歴史は古く、昭和2年の心理学の研究論文によるもので、現在ではおよそ8割の人が血液型の違いによって性格や行動パターンが違うと信じているほどです。
果たして、本当に血液型と性格には、関係性があるのでしょうか。そこで保育園児に協力してもらい、それぞれの血液型別に行動を観察します。すると、想像を上回る面白い結果が次々と明らかに!


録画して見てみたが、まあまあまともな内容だった。導入部でアシスタントが「今大ブームの血液型を科学しまーす」。街頭インタビューで「8割の人が『血液型性格判断』を支持』」。「O型大雑把、A型几帳面、B型自己中心的、AB型気分屋」と「だいたいみなさんのイメージは同じでした」。まあ、この辺は実際にそうなんだろう。で、実験。

「保育園の子供たちに各血液型3人ずつに分かれてもらい、粘土でケーキを作る姿を観察します」。ケーキを作ってもらう実験では概ねイメージ通りの観察結果で、「かなり当たっている様子」とテロップ。しかし、それぞれメンバーを入れ替えて、好きな動物のお絵かきをさせると、「血液型性格判断は当たっていたり…外れていたり・・・」。実験結果自体は想像範囲内だが、テレビ番組で放送されたのはちょっと想像を上回る。当たり前だが、これだけの実験で、血液型と性格の関係について肯定も否定もできない。

血液の専門家、東京医科歯科大学教授・日本組織適合学会会長・木村彰方さんのコメントとして、「巷ではよく言われていますけども血液型と性格には科学的根拠はないです」とテロップ。血液型性格診断に科学的根拠のないことを明示したことは評価できる。心理学の専門家のコメントとして、「A型は几帳面だと言われているから、そう思い込んで、そういう行動をとっているに過ぎない」と口頭で言った。別の国で血液型の分布が異なることも挙げられていたが(たとえば、グアテマラではほとんどがO型だが全員大雑把なのか)、これは血液型性格診断が間違っているという根拠にならない。「(全員)大雑把なのかもよ」という所ジョージのツッコミはさすが。

血液凝集反応と輸血の話は問題なし。血液型別によって病気の罹りやすさが異なるという藤田紘一郎の談話は不要である。たとえば、ペスト菌やサルモネラ菌はB型抗原を持っているので、抗B抗体を持つO型、A型の人はペストに罹りにくいとのことだが、理論的にはそう予想されても、疫学的に証明されない限りはなんとも言えない。2000年のNatureの総説*3には「胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が認められる以外には、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものはない」とある。■パラサイト式血液型診断〜藤田紘一郎がトンデモさんリスト入り?でも論じたが、藤田紘一郎による血液型に関する主張を信用すべきではない。そもそも藤田は別の場所では、「ペストやコレラにはO型が一番かかりやすいんですよ」*4と言っている。O型はペストにかかりやすいのか、かかりにくいのか、どっちなんだ。

白血球の血液型(HLA)に関して、「女性から見た時の男性の好みが変わってくる」という話は、有名である。ウェブ上ではたとえば■HLAで決まる(?) 好みの異性の匂い(三菱化学メディエンス)で読める。Nature Genetics誌に載った。番組中でやっていた実験は、論文と同様の結果を示したが、女性側の被験者が2名だけ。これもこの実験だけではなんとも言えない。「デモンストレーション」を行わなければならないテレビ番組の限界か。

まとめると細部に問題はあるものの十分合格点だ。比べるのも失礼であるが、「あるある大辞典」などと比較すると格段にマシである。「所さんの目がテン!」については、こういうエピソードもあるそうだ。健康食品学の教授が「あるある大辞典」からレタスでネズミが眠るという実験をやって欲しいという依頼を受け、実際に実験したところネズミはいっこうに眠らなかった。「あるある大辞典」の取材班は「映像としてはネズミが眠っているように見える場面」を撮影して帰り、番組ではその映像に別の権威者のコメントをかぶせていかにも実験が成功したかのように捏造した。一方、『「あるある大辞典」以来多くの方がレタスによる睡眠に関心を示しておられ、レタスの催眠作用に関する検証は一般の方にお知らせするのに意義が大きい』と考えた「所さんの目がテン」の番組のディレクターはどうしたか。


■納豆ダイエット事件で忘れられているもう一つの問題点(健康食品管理士認定協会)


 そこで、「あるある大事典」の取材と放送の経過を説明したところ、ディレクターが「頭が真っ白」状態になられた様子が電話でもよく伝わってきた。その3週間後の放送予定日も決定し、番組予告もでており、大半の取材は終えていて最後のポイント実験としての依頼であったから無理もないことである。
 今更どうにもならないが、ディレクターは番組を何とかまとめなくてはいけないと本当に困られた。そこで、確かにラクチュコピクリンはレタスの中に少ないが含まれているので、たくさん食べさせたら眠る可能性はあるかもしれない、というかすかな期待のもとに、ウサギや犬に非常に多量のレタスを負荷される実験をそのディレクター自身が年末年始を返上してやられた。
 しかし、結果は全く期待はずれで我々の実験室で行ったネズミの結果と同じであった。そこで、放映予定の一週間位前の段階でその番組の放送の中止を決定された。ディレクターには苦渋の決断であったようであった。しかし、私はこうしたことに接して、話せば分かるマスコミの方もいると言うことに妙な心の安らぎを感じたのを覚えている。


このことはもっと知られるべき。「所さんの目がテン!」は日曜の朝7時から放送。私はなるべく見るようにする。

血液型別の保育園児の実験は、否定とも肯定ともつかない中途半端な結果に終わった。もしかしたら、この実験も思ったような結果にならず、放送の内容を変更したのかもしれない。少なくとも、「最初は血液型性格診断に肯定的な内容であったが、否定派から圧力がかかって変更になった」などという妄想よりかは、ずっとありそうだ。

*1:URL:http://mixi.jp/view_community.pl?id=56165

*2:URL:http://www.ntv.co.jp/megaten/next/index.html

*3:Risch NJ. Searching for genetic determinants in the new millennium. Nature. 405(6788):847-56, 2000

*4:URL:http://www.anicom-pafe.com/taidan/archives/cat64/