NATROMのブログ

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唐津市の救急体制は整っている

佐賀県唐津市で意識不明の中国人男性が15病院に受け入れ不能だったというニュースがあった。いわゆる「たらい回し」報道は珍しくもないし、15件という数字も平凡だが、行政と医療の現場の意識の乖離が見事すぎるので紹介する。


■唐津の急患受け入れ拒否:市「悪条件重なった」 救急体制の危機表面化 /佐賀*1(毎日)


[唐津市消防]本部の松尾房利・警防課長は「年始の深夜という時間帯で、市内の二つの総合病院に別の患者を搬送した直後だったなど、悪条件が重なった。搬送側としては、できるだけ受け入れをお願いするしかない」と話す。唐津市地域医療課は「市内の救急体制は整っており、今回のケースは異例」と受け止めている


■佐賀・唐津で意識不明の中国人男性、15病院に断られ死亡*2(読売)


 受け入れを断った唐津市の病院はこの日、夕方から未明にかけて8人の急患を抱え、救急隊から要請を受ける約30分前に脳梗塞(こうそく)の患者を受け入れたばかりだった。
 当直の医師は2人。同病院は「医師が体にむち打ってぎりぎりの体制で対応しているが、どうしても対応できないケースがある」としている


強調は引用者による。「市内の救急体制が整って」いるように見えたのは、「医師が体にむち打って」ぎりぎりまで頑張っているからであろう。都会と比べると、医療機関の少ない地方のほうが、いわゆる「たらい回し」は起きにくい。救急病院が一つしかなければ、選択肢が一つしかないので救急隊はそこに連絡する。受けるほうも、断ると次がないのが分かっているので無理をしてでも受ける。現場は阿鼻叫喚だったりするけど、搬送先決定までの時間や、問い合わせ件数といった数字には表れない。そんなわけで、「救急体制は整っている」というコメントが出てきたのだろう。

私がその病院の勤務医だったら、「救急体制は整っているのかあ。じゃあ、僕一人ぐらい抜けてもいいよね」って思っちゃうかも。まあ本当に救急体制が整っているところなんて、日本中どこを探してもないんだけどね。


*1:URL:http://mainichi.jp/area/saga/news/20080229ddlk41040003000c.html

*2:URL:http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_08022854.htm