NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

外来の待ち時間を減らす方法

イキナリ私の答えを言っちゃうと、1)コストをかける、2)アクセス制限、3)医療の質をあきらめるのうち、どれか好きなのを選んでくれ、ということになる。局地的には4)無駄を省いて工夫でなんとかする、という答えもあるかもしれない。無駄を省くには、まずそこに無駄がなくちゃいけないのだけれども、日本の医療は国際的にはコストパフォーマンスは良好であることを忘れないようにしよう。局地的にはともかく、マクロでみたら日本の医療は無駄の少ないほうである。「日本の医療は高コスト体質」などと言っている人たちの真の目的がどこにあるのか気を付けたほういい。

このエントリーを書くきっかけは、待ち時間問題について、id:shinpei02さんからトラックバックをもらったことである(参照:■病院の待ち時間を減らしてみよう■科学的思考も)。外部の人からどう見えるのかというのはたいへんに興味深いし、提案自体もありがたいことだ。もともとは、私が鈴木みそ先生のブログにコメントしたことにある。要約すれば、「待ち時間長いのはともかくせめて表示ぐらいしろ」→「コストを負担する気がないならアクセス制限かサービスをあきらめるしかない」→「工夫次第でできるはず。医療者のやる気がないからだろう」という流れ。

ちなみに、「厚生省にどんな文句を言えばいいかの意見をプロに聞きたかった」なんて聴衆は、みそ先生のブログにはいなかったですぜ。「サービス向上の努力を怠っているとしか考えられない。お金がないとも思えず、待ち時間情報開示システム程度の出費ができないのは単純に経営が下手ということではないか。『医者は特別』という甘えがあるように思えてならない」という、医療者の努力不足であるという意見がまずあって、概ね他の聴衆もその意見に好意的であった。正直、喧嘩を売られたと思ったけど、一般の方々の認識としては普通のものであろう。確かに私は待ち時間を減らすための具体的で効率的な提案はできなかったが、そもそもコストをかけずにアクセス制限もせずに待ち時間を減らすような都合のよい方法などない、と言いたかったわけで。

強いて提案するとしたら、医師に準じた資格者にトリアージさせるぐらいかな。現状でも気の効いたナースは早目の診察の必要そうな患者さんがいたら教えてくれる。欠点はリンク先にも書いたが、患者の満足度が必ずしも上がらないってことか。わざわざ開業医でなく総合病院に来るような患者が、看護師の診察で納得するだろうか?希望すればもれなく医師の診察が受けられるとなるとトリアージの意味がないし、看護師レベルで必要と判断されないと医師の診察を受けられないというのはアクセス制限である*1

id:shinpei02さんが提案している、「一人当たり月間一万円までは自由診療とする」というのはいい考えだ。実は今でも似たような制度はある。特定療養費といって、大きい病院に初診でかかるとき、紹介状がなければ余分に金をとられる。これもやっぱりアクセス制限なのであるが。金額はそれぞれの医療機関で決定できるので、ある程度は市場原理が働くはずであるが、いろいろな理由*2であまり高くはできない。

分業についての提案は、なるほど、あまり考えたこともなかったものもあり興味深い。体温や血圧を自分で測ってもらうのは、現状でもしている病院はある。問診表はどこの病院でも書いてもらっているだろう。ただね、これが意外と役に立たないんですわ。わざわざ太字でいつ頃からどのような症状があったか具体的にと問診票に書いてあるのにも関わらず、一言「風邪」としか書いてくれないのはザラ。酷いのになると、面と向かった問診ですら症状を聞き出すのに一苦労する。「こんにちは、今日はどうされました?」「風邪の薬くれ」「いつ頃から、どのような症状がありましたか?」「いいから風邪薬くれよ。赤い粒のやつ」。こんな感じ。カルテの記載の分業は、たとえばアメリカ合衆国では医療秘書が口述筆記してくれると聞く。ただ、アメリカ方式が日本でも効率的かどうかは別問題。アメリカの専門医並の給料をとる医師が日本にもいれば有効かも。


*1:別にアクセス制限でもいいと私は思うが

*2:たとえば、救急車で来院すると初診で紹介状がなくても特定療養費はとれない。特定療養費を高くしたとして、初診で総合病院にかかりたいDQNがどうするのか予想できるよね