NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

澤田石先生からのご質問へのお返事、および、こちらからの質問の再掲。(2016年2月6日)

澤田石先生、リプライありがとうございました。今回はたくさんご質問をいただいたので、ブログのほうでお答えいたします。

「私が個人批判をする条件は現実世界で知り合いである」と言いつつ、一方で、「現実世界で知り合い」ではない村中璃子氏に対しては批判している矛盾について

医療ジャーナリストの伊藤隼也氏に対して批判をしないのはなぜか、という指摘に対して澤田石先生は「私が個人批判をする条件は現実世界で知り合いである」と言いました。それならば、「現実世界で知り合い」ではない村中璃子氏に対して批判しているのはおかしくないですか。

回りくどい言い方は伝わらないのではっきり言います。伊藤隼也氏の間違いについて気づいているにも関わらず、澤田石先生は批判できていません。その理由は、HPVワクチンについては伊藤氏は「味方」であるからでしょう。「味方だから間違っていても批判しないのだ」では恰好がつかないため、「批判をする条件は現実世界で知り合いである。だから伊藤氏を批判しないのだ」と嘘をつき、その矛盾を指摘されるはめになったのです

さらに、「たとえ批判をしないとしても、ツイッターなどの公開の場で伊藤氏に質問ぐらいはできるだろう」という指摘に、澤田石先生は答えられていません。「直接に会ったら伝える」というのみです。これも、「味方」である伊藤氏に対して都合の悪い質問をするわけにはいかない、という事情があるからでしょう。伊藤氏は自分に都合の悪い発言をする人を次々と大量にブロックしています(■伊藤隼也にブロックされてる医療関係者 - Togetterまとめ)。伊藤氏からブロックされないためには、澤田石先生は伊藤氏にとって都合の悪いことは言えないのです。


それで、四種類の買収って何ですか?

澤田石先生は、しばしば「四種類の買収」という言葉を出します。何度か「四種類の買収とは何か?」と質問しましたが、まともな答えは一度も返ってきません。確かに金の力を軽視するのはナイーブですね。でも、誰も金の力を軽視してはいません。「四種類の買収」とは何かを尋ねているのです。

推測ですが、まともに答えると澤田石先生の考えがトンデモであることが明らかになってしまうことをご自覚しておられるので、言を左右して答えないのではないですか。守銭奴とか奴隷という言葉も多用しているようで、澤田石先生は典型的かつ単純な陰謀論者に過ぎないという可能性を否定できません。


拡大解釈される副作用の定義

いいえ。「接種後に一年以上も通常の生活不能」という副作用が1万人分の1であれば、接種しません。さすがにワクチンの副作用としては容認しがたいレベルです。ただ、「接種後に一年以上も通常の生活不能」という副作用が1万人分の1という推測は間違っていると考えます。

澤田石先生は、ANSM(仏国立医薬品・医療用品安全管理機構)の「550万人への接種のうち503人に重篤な副反応が出現」をリツイートして、「一万人に一人が正常な生活不能の健康被害になるワクチンを、受けたい人はごくまれであろう。そんなワクチンは製造禁止が妥当でないか」とコメントしました*1

やんわりと質問の形で誤りを指摘すると通じないのではっきり言います。ANSMのいう重篤な副反応は、因果関係が不明なものも含む、あるいは正常な生活不能以外の副反応も含むものです。澤田石先生のコメントは間違っています。ついでに言えば、重篤な副反応は持続しない一時的なものも含みます。

さもHPVワクチンによって「接種後に一年以上も通常の生活不能の女子が一万に一人」起こるかのように言うのは、良く言っても配慮に欠けますし、悪く言えばデマです。また、「重篤な副反応の定義には興味なし」*2という言葉にも驚愕いたしました。用語の定義は議論の基本です。「接種後のある時点で生じた症候群が「今でも」継続している女子が380万人中何人いる」かに本当に関心があるのなら、ANSMのいう「重篤な副反応」が何を表しているのか、正確に知りたいはずです。勉強をする努力はしたくないが患者さんを救いたいという熱意だけはあるニセ医学の提唱者と同レベルです。


被害者会の言動を「醜悪」と表現することは倫理的に問題があると考える

はい。「子宮頸がんワクチンで被害を受けた、という方々」を醜悪だと表現するのは倫理的に問題があると考えます。ワクチンと健康障害に因果関係はあるかもしれませんし、ないかもしれませんが、「ワクチンによって被害を受けた」と主観的に感じてしまうことは当然であり、その感情に基づく言動を批判することは妥当性に欠けます。「子宮頸がんワクチンで被害を受けた、という方々」は、確かに被害者なのです。被害者ではなく被害を与えた者を批判するべきです。

久住英二医師が想定している批判の対象は、患者さんあるいは患者さんの家族ではなく、その周囲にいて患者さんの回復を妨げるような運動家でしょう。「子宮頸がんワクチンで被害を受けた、という方々」ではないはずです*3。しばしばこうした運動家は、自分たちに対する批判を患者さんや患者家族に対する批判であるとすり替えて批判から逃れようとします。なので、久住英二医師は、批判の対象は患者さんあるいは患者さんの家族ではないことが明確にわかるよう、誤解されたり揚げ足を取られたりしないよう表現するのが望ましかったのではないか、と考えます。


倫理規定違反と医師組織による処分は、その程度による

倫理規定違反の発言と処分の程度によります。醜悪発言は、倫理的に問題があると個人的には考えますが、医師組織が処分するほどではないでしょう。よしんば医師による倫理規定違反の発言が処分に値するとしたら、まっさきに処分されるべきなのは、「障害児の親は一生かけて反省しなければならない」などと主張する内海聡氏でしょう。伊藤隼也氏は、ツイッターで内海聡氏の著作を紹介したり、自著で内海氏の関わった症例を好意的に言及したりしています。伊藤隼也氏自身も、発達障害という診断を受けさせている保護者を指して「知性とデリカシーが欠如している」と発言しています*4


横田俊平らのHPVV接種後症候群の文書は読み、健全な議論を期待している

いくつかは読み、確かにHPVワクチン接種によって何らかの免疫障害が生じる可能性は否定できないと考えました。しかしながら現時点では紛れ込みの可能性も否定できず、また頻度としては低いので、希望者に対してもHPVワクチン接種を控えたり、ましてや製造禁止する必要はまったくないと考えます。ニセ医学に親和性のある医療ジャーナリストや、専門用語の定義に無頓着な医師が議論に参加しても混乱が増すばかりなので、専門家による健全な議論を期待しています。


HPVワクチン接種後症候群が社会問題化している事実は認める

各国でHPVV接種後症候群が社会問題化しているという事実を認めます。しかしながら、全世界の諸国で社会問題化しているという事実が「HPVV接種後症候群の頻度が異常に多い」という主張の真実性を示唆しているという、澤田石先生の主張は間違っています。澤田石先生がご存じなく、関心もないというウェイクフィールド事件の教訓がそのことを教えてくれます。ワクチンと自閉症には因果関係がないにも関わらず、各国で社会問題化し、しかもその余韻は続いています。余韻が消えることはないでしょう。

反ワクチン運動が存在しないにも関わらず、各国で独立してHPVV接種後症候群の報告が相次いだのであれば、確かに「HPVV接種後症候群の頻度が異常に多い」という事実が示唆されます。しかしながら現時点では、因果関係があるのか、それとも反ワクチンに煽られて見かけ上の報告数の増加があってHPVV接種後症候群が社会問題化したのか、区別がつきません。反ワクチン運動家と、その運動を無批判に報じるマスコミが、HPVV接種後症候群についての事実をわかりにくくさせているのです。


HPVワクチン接種後症候群が新規な前例無き病態だとは現時点では考えない

いいえ。現時点では、HPVワクチン接種後症候群が新規な前例無き病態だと考えるに足る十分な証拠は存在しないと考えます。理由は既に、■澤田石先生に対する反論(2016年1月30日)で述べました。「既存の疾患が十分に除外されていないのではないか」のあたりです。


「疑わしきは控える」との慎重の原則が医者の取るべき姿勢か

その時点で入手できる情報から、メリットとデメリットを勘案比較して、メリットが十分に大きいと判断できる場合には、疑わしくても控えずに介入を行うべきだと考えます。不確定要素が大きい場合には、その旨を患者さんに説明し意思決定を援助します。HPVワクチンについてはこの段階であると考えます。製造禁止にして一方的にワクチン接種を希望する人の選択肢を奪うことは、「ワクチンを打つべきかどうかお前は正しく判断できないだろうから、私が代わりに判断してやろう」という悪しきパターナリズム的な発想です。

何度かお尋ねしているのに答えていただいていない質問があります。「疑わしきは控える」との慎重の原則をおっしゃりますが、効果が疑わしい一方で有害性は明確にある小児に対する甲状腺がん検診に慎重の原則を適用しないのはなぜですか。質問を再掲します。上記のツイートをRTしているid:sivadさんあたりが代わりに答えていただいてもよいですよ。

・前がん病変の減少まで証明できたHPVワクチンについては「あと十年くらい待とう」と言っている一方で、がん死どころか代理指標ですら有効性が証明されていない甲状腺がん検診については「速やかなスクリーニング検査を」と言うのは、ダブルスタンダードではないですか?

メリットとデメリットを勘案しない「慎重の原則」は、どのような医療介入をも否定できます。なぜなら、医療介入には常に潜在的にリスクがあるからです。不活化ポリオワクチン接種後に死亡事例があった事実に対しては、澤田石先生の「慎重の原則」は働きませんでしたね*5。なぜですか。マスコミが騒がなかったからですか。甲状腺がん検診もマスコミが騒げば反対するのですか。HPVワクチンもマスコミが騒がなければ反対しないのですか。


上昌広氏らが製薬会社により間接的に買収されているのではないか、という仮説について

「上昌広氏らが製薬会社により間接的に買収されている」という仮説が偽とする根拠はありません。「伊藤隼也氏や澤田石先生が製薬会社により間接的に買収されている」という仮説*6が偽とする根拠ないのと同様に。この手の悪魔の証明の話に何の意味があるのか理解しかねます。それはそれとして、

・伊藤隼也氏の発言は、WHOより信用できるとお考えですか?

という質問にはお答えいただけないのですね。


医学的に不正確な発言を行う医療ジャーナリストを問題視しています

もちろん、HPVワクチンの議論よりも、医学的に不正確な発言を行う医療ジャーナリストを問題視するほうを私は優先しています。現時点ではHPVワクチン接種後症候群について専門家以外が議論したところで、あまり意味がありません。現時点ではHPVワクチンはメリットがデメリットに勝ると私は考えていますが、将来的にはどうなるかわかりませんので、専門家による議論をウォッチしたいのです。ただ、反ワクチン運動家が発するノイズによってなかなか効率的にはいきません。

一方、医療ジャーナリストの不適切発言を指摘することなら、私の能力内で可能です。伊藤隼也氏が多くの医療従事者から信頼されていないことは既に知られています。一部の医療従事者は伊藤氏に親和性がありますが、そういう医療従事者に伊藤氏の問題点をご説明しご理解いただくか、ご理解いただけない場合は、そういう医療従事者は信頼に値しないことを周知することが目的です。医療に関する不正確な報道は多くの人の健康被害につながります。少しでも正確な報道がなされるよう、微力を尽くしております。


*1:https://twitter.com/sawataishi/status/693789539022696448

*2:https://twitter.com/sawataishi/status/694555150422114304

*3:ホメオパシーなどでよくあるように、被害者が同時に加害者でもある場合もある

*4:https://togetter.com/li/923110

*5:https://twitter.com/sawataishi/status/694173230236479489

*6:トンデモな人物にあえてワクチン危険論を叫ばせることで、ワクチン危険論の信用性を毀損したり、正確なワクチン危険情報をデマの山に埋もれさせて目立たなくするのが目的であろう